事実、選手を評価するのは非常にむずかしい。そもそも何をどのように評価すればいいのかわからないこともある。
今回、選手の評価方法であるTIPSを紹介したい。このTIPSを知ったのは約30年前。当時のアヤックスアムステルダム育成部責任者の講習会だったと記憶している。
TIPS
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TIPSを「良いレベルにあり、将来性のある選手」を評価する方法として定義し、その中身をこの記事で説明する。
- T:技術
- I:洞察力
- P:個性
- S:スピード
一時期このTIPSは流行になった。しかし今では耳にすることは殆どない。しかし、今でも選手を評価する時の私の基準はTIPSにある。
T
Tは技術を意味する。ボール扱いの上手さとシンプルに考えていいだろう。他の選手が持たない特徴的な技術や基本技術の精度についての評価である。
評価者の多くは、とかくこの技術に万能性を期待しがちだがその必要はない。とりわけ優れた技術的特徴があれば、そこを見逃さないことが重要である。
しかし近年、複雑なボール操作が得意な選手への評価がやたらと高いことは、選手への評価として懸念するところだ。このことについては、また別の議論が必要だろう。
I
Iは洞察力を意味する。つまり「サッカーIQ」のことで、プレーの賢さのこと。これは、状況に応じて判断を変えたり、先に起こることを予測しながらプレーする能力である。そして、このIは他の選手との違いを生み出す重要な要素だと考えている。
このIは次のPとの関連性が高く、このIを見抜くには、コーチにも高い洞察力が必要である。
P
Pは個性。個性は本来その選手が持つもので、それまで育ってきた環境や教育に影響を受ける。コーチの指導でどうこう変わるものではない。
この個性は、プレーの冷静さや強烈なリーダーシップ、負けず嫌いだとか、ゴールへの執念など、その選手の振る舞いから見てとれるものである。
このPはTIPSの中心的存在で、他の項目へも大きな影響を与えていると理解してもらいたい。さらに付け加えておくと、日本の選手はこのPが見えにくく、コーチはこのPの扱いが苦手だという事実がある。
S
速さを意味するスピードは三つに分類する。
- 走るスピード
- 反応スピード
- 判断のスピード
1はわかりやすい。とにかく足が速い選手だ。2も評価しやすく、それほど困難ではない。これらは身体的要素が強く、見ればだいたいわかる。
ややこしいのは3。頭の中で起こっていることだから評価しずらい。
Sの各項目のうち、この3への評価は重視すべきだ。なぜなら冒頭に書いた「よいレベルにあり、将来性のある選手」は必ずこの能力を持ち合わせているからだ。
Sの評価は、その選手のプレーの2〜3手後の状況をチェックするのが良い。判断が速く、ボールをうまく捌く選手がプレーした後は、味方選手にもプレーに余裕がでる。また難なく危機を回避したり、最終的に何とかできるディフェンダーは、とにかく状況判断のスピードが速い。
見る目
選手の評価に困っているコーチは、ぜひTIPSを試してもらいたい。もしかすると、この記事の内容の他に新たな発見があるかもしれない。そして、このTIPSのおかげで自分のコーチングに変化が現れるかもしれない(この変化は私が体験したことだ)。
最後にこのTIPS評価はただの選手評価にとどまらず、コーチの見る目を養うこともできる。この見る目は、選手の将来性を見抜く能力であり、育成年代のコーチとして非常に重要な能力ではないだろうか。