考える力を育てようと、コーチたちはさまざまな方法で選手へアプローチするようになった。また、この考える力については多くのコーチが、その重要性への理解を示している。
そして、この考える力を育てる方法として、第一に挙げられるのが「問いかけ」だ。今回はこのコーチの問いかけを中心に、考える力を育てる方法にについて考えてみる。
考えさせるための問いかけ
選手への問いかけは、考える力を育てるための指導方法として広く認知されるようになった。これまで選手への問いかけ方について多くの議論が重ねられ、徐々にその重要性が高まっている。
現在の指導現場で見られる選手への丁寧な問いかけは、以前には見られなかったが、今ではその姿を見ないことのほうが珍しい。
隠された答えへの誘導
「こんなふうに答えれば正解かな」と思いながら、質問に答えた経験はないだろうか。少なくとも僕にはある。
もし、コーチの問いに対する答えが、どこかに準備されていると感じれば、選手はどのように考えるだろうか。おそらく、ほとんどの選手は、先ほどのように「こんなふうに答えれば正解かな」と考えるだろう。
僕が提言したいのは、この種の問いかけの多さで、その実のほとんどが、決められた答えへの誘導になっていることだ。そして、その決まった答えを探す選手の姿を見て、考える力が育っていると評価するコーチも少なくない。
自分に問えない考える力
自分の頭をつかい、自分なりの答えを出そうとする選手も確かにいる。時にその答えには説得力がり、周りを納得させる論理性も高い。
しかし、だ。
そんな答えが返ってきたとき、コーチはその答えを認めつつも、準備した答えへ引き戻すように、再び問いかけを被せていくことが多く見受けられる。
つまり、どれだけ素晴らしい答えだとしても、最終的にはコーチが準備した場所へ誘導されてしまうのだ。その答えが反映されることは稀だといっていいだろう。
このことが習慣化すると、選手は自分に問うことをしなくなる。それよりもコーチの頭にある答えをさぐることを優先させる方向へ、頭が切り替わっていくのだ。
指導を無力化させる強い力
答えへ誘導する問いかけの習慣は、コーチの指導を無力化させると僕は考えている。このことについては、さらに調査をする必要があるが、少しばかりの危機感を感じている。
なぜなら選手は結果を都合よく解釈するようになり、とりわけ結果が思わしくないとき、自分の結果として責任を負わなくなるからだ。つまり、コーチが導いた方法に従った結果だから自分には責任がないと捉えるようになる。
この習慣が続くほど、コーチと選手との距離が開き、最終的にはコーチの指導を無力化させるとても強い力が育っていくと考えている。
考える力を育てる鍵は「責任」
選手への問いかけは指導技術の一つとして、とても重要だ。しかし、その問いかけ方によっては、コーチが意図する考える力の育成につながらず、そればかりかマイナスの効果を生み出す可能性があることを伝えておきたい。
考える力を育てる方法は、とてもシンプルだと僕は考えている。
考える力を育てるための、考えさせる習慣は「自分で決めて行動させる。そして、その行動に責任を持たせる」ことだ。
つまり「すべきことを選手が理解し、判断・行動し、そこから得た結果に責任を持たせる」ということである。
そして得られた結果を評価(承認)するための問い方をコーチは工夫すればいい。そうすることで、選手は自分ごととして結果をとらえるようになり、自分の頭で考える習慣を身につけるようになるだろう。考える力を育てる鍵は「責任」である。考える主軸は自分にあることを選手が理解すれば、主体的に行動を起こせる人に育っていくと、僕はそう考えている。